Bewitching Moonlight in Deeply Midnight #4
今宵は満月。妖しく輝く月光が「ザナドゥ」を
照らし出している。あたりは不思議と静かで、
恐怖すら感じた。それをオリビアに言うと、
このあたりは稀に見るパワースポットだと
言った。常識で考えれば、砂漠のど真ん中で
文明が発達するなど考えにくく、更に
モンスターの多い地域という特色も
あるので、このあたりに流れるパワーを
流用し建築。長期に渡る安寧秩序を
獲得してきたと思われる。しかし、何らかの
原因でパワーバランスが崩れ、遺跡と
なった。これまで何人たりとも近づけ
なかったのは、やはりパワースポットに
流れる力が作用して、近づけさせなかったの
だろう。ここまで説明されてもいまいち
しっくり来なかったが、要は来るべき手順を
踏んでくる事ができた、ということらしい。
遺跡は半分以上砂に埋もれている状態だったが、
埋もれかかった窓から中に入れるようだった。
ラクダの手綱を自生している木に結わえ、
装備を整えた。俺はしばらく出番の無かった、
叔父から貰った太刀「香駿」を、オリビアは
いつもの「ノーブルフレグランス」を
背負った。オリビアを先頭に、窓から
遺跡の中へと入ると、すぐさまカンテラに
明かりをつけ、奥へ奥へと進んでいった。
廊下を進んでいくと、月明かりが差し込む
通路へ出た。まだ埋もれきっていない
場所があるのかと思い、俺は窓から外を
覗き込むと、眼下には奈落と言っても
等しい位の巨大な穴が広がっていた。
ここの通路は崖からせり出しているのだ。
だから砂に埋もれることなく、月の光が
容易に入ってくるのだと理解できた。
一度、建物の上層にある玉座と思しき
場所に出た。
「この辺りには巨大な地下水脈が流れて
いる。だから地下への入り口が必ずある
はずだ。それを探して欲しい」
地下水脈の入り口。宝探し初心者の俺に
そんな事を言われても何処にあるのか
検討などつくはずもない。ただ、地下と
言うのならまずは地下へ行く事が優先
されるだろう。
「いや、この国の治水管理は位の高い
僧侶が行っていた。それ関係には必ず
王家も参列する決まりになっている。
何せ、ザナドゥの水は命の水と名高い
ほど神聖な物なのだからな」
俺が初め聞いていた伝説とは違うが、
オリビアが伝説の「ザナドゥ」に関して
確信的な知識を持っているのには驚いた。
一緒に居た時はそんな話は一切
しなかったのに。
「言い伝えによれば、毎年行われた
治水式には、関係者以外はこの城の
二階層部には何人たりとも寄せ付け
なかったそうだ。だから、地下へ降りる
のは二階層からだと確信した。そのような
入り口があるとすれば、一般人が
普段立ち入れない場所」
・・・私室とか?と俺が言った。
「おそらくな」
オリビアは二つの玉座の後ろにある
入り口を進んだ。予想通り、プライベート
ルームがそこにはあった。国王とその妃の
部屋が分かれていたが、オリビアは妃の
部屋に入っていった。それに反し、俺は
国王側の部屋を調べに入ろうとする。
「責任者は代々王妃と決まっていたんだ。
だからこちらを手伝ってくれ」
国王側に入ろうとした俺を引き止め、
オリビアは王妃側の部屋を物色し始めた。
壁を触って見たり、叩いて見たり。
「触ったり叩いたりする事で、何かが
違う事に気が付く。君もやってみるんだ」
オリビアのまねをしながら、「香駿」の
先の部分で壁や床を入念にチェックする。
長年放置されていたせいで、すっかり
砂だらけとなってしまった部屋だけに、
叩くと砂が良く落ちる。しかし一箇所
だけ、小さな穴が開いており、細い棒
なら奥まで入りそうなくらいのものだ。
俺はオリビアを呼ぶと、この小さな穴の
事を報告した。
「ノチェ。これを持っててくれ」
カンテラを渡され、オリビアが見える
ように上から明かりを照らした。オリビアは
穴に息を吹きかけて、穴の中に詰まった
砂を払う。
「とうとうこいつの出番か」
メイルと首の間に手を入れて、胸元から
何かを手繰り寄せていた。それはオリビアが
大事にしていた鍵だ。そろそろその正体を
教えてくれてもいいんじゃないか?
と言うと、オリビアは言った。
「これはな。水門の鍵といって、伝説の
風翔龍クシャルダオラの甲殻から削り
出されて作られた鍵だ」
オリビアは穴に鍵を差し込み、回す。
しかし何も起きず、沈黙だけが支配した。
・・・オリビア?不安そうに彼女に
尋ねるが、彼女の眉一つ動かさない
表情を見ると、やはり何らかの確信が
あるのだろう。
「どこからか音が聞こえないか?」
音?耳を澄ませていると、確かに壁の
奥から何かの作動音が聞こえてくる。
そして、カチッと言う音と共に、
オリビアは鍵を抜いた。石と石の間に
指を入れ、壁だと思っていた扉が
重厚な音を立てながら、前に吸い
込まれていく。これが地下水脈への
入り口だった。
「ノーチェス。つっかえ棒になる物は
ないか?」
ちょうど衣服などを引っ掛ける鉄の
スタンドがあったので、それをオリビアに
渡した。何に使うのかと思ったら、
それを倒して壁と扉の間に倒して、
閉まらないように支持棒として利用した
のだ。
「この扉はな。冷気に敏感な金属を
錠として利用しているんだ。だから、
私がこの鍵を差し込むとクシャルダオラの
冷気が発動して、錠全体を冷やし金属を
凝縮させる。凝縮、つまり小さくなる
から錠が外れるのだ。だから、さっきの
ように支持棒をしておかないと、
冷やされた金属が温まって元の大きさに
戻ってしまう。閉まった時に錠が元に
戻っているから、出るに出られなく
なってしまうと言うわけだ」
なるほど。いつも感心させられて
ばかりだ。オリビアのトレハン知識は
伊達ではなかった。
俺たちは石造りのトンネル階段を下へ、
下へと降りて行く。それからしばらく
進むと、視界が開けて巨大な地下空洞
へとやってきた。下からは大量の水が
流れている音が聞こえる。やはり
オリビアの言った地下水脈というのは
正しかった。階段を下りるとその
正面には、人を模した巨大な石像が
両端に鎮座しており、奥に向かって
延々と並んでいるのだった。どの
石像も乳房がかたどられており、
どうやら女性を象徴しているようだ。
石像の間を進んでいくが、石像は
ところどころ崩れ落ちている。やがて
四角錐の祭壇まで行き着いた。錐の
頭頂部は人ひとりが立てるほどの
スペースとなっており、そこで
治水の儀式でも行っていたのだろうか。
「ノチェ、カンテラを」
言われるがままに彼女にカンテラを
渡すと、そのまま祭壇に登っていった。
俺も彼女の後に付いて階段を登る。
祭壇の四隅に腰の高さくらいの燭台が
あったので、オリビアがそこに火を
灯す。俺は、これだけ?と尋ねた。
「いや、どこかに宝物庫があるはず
なんだ。もしかしたら、この祭壇が
何か隠しているかもしれない」
オリビアは不意に床を調べ始めた。
手探りで、先ほどの鍵穴でも探そうと
言うのか。俺もしゃがもうとしたが、
人が二人立っているだけでも狭い
スペースだ。俺はオリビアを尻で
祭壇から押し出してしまった。
「ば、馬鹿」
祭壇を滑り落ちるオリビアだったが、
幸い燭台に捕まって落下は免れた。
俺は懸命に謝りながら、彼女に手を
差し伸べて引き上げた。これは絶対に
怒られる。そう思っていたのだが、
彼女は別のことに意識をやって
しまっていた。
「この燭台・・・、動くな。他の
台が動くかどうか試してみろ」
オリビアの言う燭台はぐるぐると
回る。しかし、他の燭台は回らない。
そしてオリビアは回る燭台を引っ張り
抜いて見た。するとどうだろう。
ちょうど男のこぶしが一つ入る
くらいの小さな穴があった。俺は
燭台を渡され、オリビアはその穴に
明かりを照らした。
「道は開けた」
にんまりとするオリビア。さっきの
鍵を取り出して、その穴の中に差し
込んだ。どうやらその奥に鍵穴が
隠されていたようだ。鍵を回すと、
しばらく沈黙の後、祭壇のどこか
から音がした。俺は祭壇を降りて、
扉を探した。祭壇の下部は階段を
挟んで四箇所窪んだ箇所があり、
よくみれば扉に見えなくも無い。
一つずつ押して扉が開くかどうか
試して見た。すると、右から二番目の
窪みが扉であることを発見した。
俺はオリビアを呼び、さっきの燭台を
支持棒として挟み、扉が閉まらない
様にした。そして再び狭く細い階段が
下へ、下へと続いている。トンネルを
抜けると、川が流れており、川沿いに
細い道が伸びている。どうやらここが
遺跡の最下層と思われる。道は続いて
おり、その途中で橋が掛かっていた。
俺たちはその橋を渡り、再び登り
階段のトンネルへと入っていった。
何処までも続く階段を登りきると、
そこには扉があった。どこかで
見覚えのあるような扉だったが、
今度は鍵穴が直ぐに見つかった。
オリビアはそこに鍵を挿すと、
回して錠が冷え切るまで放置。
開錠音がすると、重い扉を開けた。
扉の先は、再びどこかで見た風景。
人を模した巨像が並んでいる。
「そうか・・・。川を挟んで向こう
側には治水祭壇を置き、こちら側に
財宝を隠したというアシンメトリックか」
さっきの像と比べると、乳房がなく、
顎からは一本の棒のように延びた
ヒゲがかたどられている。
「水と女の関係が密接している。
だから、王妃の部屋から地下水脈の
道が隠されているわけだったんだ。
赤ん坊を宿した時の羊水。そして海が
母と比喩される事を考えれば、女と
水は切っても切れない縁だな」
石像の奥には、巨大な壁が立ちはだ
かった。しかし、そこには入り口が
ぽかんと、口を開けているではないか。
俺たちはその入り口を潜ると、
中は黄金に輝く金銀財宝の光景が
目の前に広がっていた。俺は、
これでオリビアの一族を救う事が
できるね、と言った。
「一族・・・確か君にはそんな
話もしたな」
オリビアの様子がおかしい。
「私は最初に言ったよな。君は
とんだお人好しだと」
振り返るオリビアは眉一つ動かさ
ない、いつも冷静なオリビアだったが、
目に殺意がこもっているのは分かった。
「私の話はどこかで聞きかじってきた
ような話だぞ。これからはまず人を
疑う事だ」
そしてオリビアは背中に背負っていた
「ノーブルフレグランス」を構える。
花に仕込まれた毒刺が伸び、俺の
心臓を狙う。俺もすぐさま背中の
「香駿」を抜いた。
「だが、君に『これから』は無いがな」
オリビアは眉一つ動かさない。俺は
こんなにも心臓が破裂しそうなくらい
脈打っているのに。
「私とやるのか?」
柄を握る手に力がこもる。
「君に私は殺せない。なぜならば、
君は人を殺した事がないからだ」
うるさい!俺はオリビアを怒鳴り
つけた。しかし、彼女は淡々と
喋り続ける。
「だが私は、その訓練をされて
いるし、今までもたくさんの
人間を闇に葬ってきた」
何故こんな事を・・・と彼女に尋ねた。
「悪いな。それは言えない」
すると、オリビアは咄嗟に突きを
繰り出してきた。正確に俺の心臓を
打ち抜きに来ている。一時後退したが、
それでもリーチの長い武器なので、
距離を取れば取るほど、こちらが
不利になる。何とか懐に入り
込めれば勝機があるのだが。
「逃げても無駄だぞ。この先の
扉の鍵は、私しか持っていないの
だからな」
そんな事は分かっている。それに、
彼女ほどの手練れから容易に
逃れられない事も。オリビは
巨大な花の盾を構えながら
じりじりと迫ってくる。宝物庫の
狭い通路では、明らかに槍の方が
有利だ。ならば、その花を叩っ斬る
しかない。己のうちから湧いて
くる恐怖と向かい合い、静かに
押さえつける。何も考えずに、
オリビアに意識を集中させる。
「そこだっ!」
確かに武器は狙ったのだが、
それよりもこちらがやろうとした事を
悟られていたせいで、オリビアの方が
一枚上手だった。縦斬りで上から
武器を両断しようとしたのだが、
間一髪のところでオリビアが後ろへ
下がる。全霊を込めた俺の一撃の
後と、失敗してしまった後の余韻に
囚われてしまい、彼女に「香駿」を
破壊されてしまった。そのまま彼女の
盾による体当たりの餌食となり、
記憶がなくなってしまうのだ。
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⇒
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