Bewitching Moonlight in Deeply Midnight #5
目が覚ましたのは、妙な地鳴りだった。俺は
オリビアに殺され、ついに地獄に来てしまった
のか。母よりも先に死ぬなんて。なんかもの
すごく怒られそうで、とても嫌な気分になった。
身体を起こすと、目の前にはカンテラが置かれて
おり、どうやらここはさっきの宝物庫のよう
だった。どうやら俺は殺されずに済んだのだ。
しかし、オリビアの姿は無く、地鳴りは止まない。
何処からその音がするのだろう。俺は宝物庫の
入り口に戻ってみた。なんということだろう。
入り口が塞がれてしまっていた。隙間から
かろうじて石像の広間は見えるのだが、
そこでオリビアが槍を構えて何かと戦って
いる様子だった。俺はオリビアの名を叫んだ。
彼女はそれに気付き、こちらを向いた。
しかし、巨大な何かもそれに気付き、
体当たりを仕掛けてきた。轟音と共に、
俺はその場でよろめいた。落ち着くと、
再び外の様子を伺った。なんとそこには、
巨大な蛇の頭が大きな口をあけ、俺を
威嚇しているではないか。
「こっちだ、木偶の坊」
オリビアが叫ぶと、蛇がそちらのほうを
向いた。その瞬間、甲高い音と物凄い
閃光が駆け抜ける。しかも光り方が
通常の閃光玉よりも長く、強く光っている。
巨大な蛇はもがき苦しみ始めた。
「ノーチェス」
オリビアが崩れた石像の間から顔を出
した。俺は怒りの念を彼女にぶつけ
たが、それよりも隙間から手を伸ばし
てきた。
「受け取れ」
それは土で出来たリングで、紐が
通っている。それと形状は違うが、
「水門の鍵」に素材が似た棒。俺は
それを受け取ると、何故だ?と尋ねた。
「生きろ」
俺は、君と一緒に戦う!と強く訴えた。
「生きろ!お母さんの為に!」
巨大な蛇が意識を取り戻したよう
だった。俺は彼女の背中を、暗く狭い
穴から見ていることしか出来なかった。
「オリビアァァァァァァ!」
次の地鳴りで岩が崩れ、俺とオリビアは
断絶された。そして涙が出てきた。
何も出来ない無力さ、オリビアへの
複雑な思い、何より初めて愛した人
だったからだ。小タル爆弾さえあれば、
ここを抜け出し、彼女と一緒に戦えた
はずだった。もちろん殺されるかも
しれない。それでも俺は彼女を
信じていたかった。たくさんの嗚咽と
共に、俺は彼女の言葉を思い返す。
母の為に生きよ、と。俺は自分の
目的を思い出した。いや、彼女に
よって思い出された。いつまでも
甘えてはいられない。まずはここ
から出なければならない。すっかり
閉じ込められてしまったが、この
ような場所には大抵通気口がある
ものなのだ。もしもの時の脱出口
にも使える。カンテラで辺りを
見回すと、上のほうに扉があった。
その錠はさっきの「水門の鍵」が
有効のようで、鍵穴に挿すだけで
簡単に開錠できた。トンネルが
続き、その先に薄暗い明かりが
差し込んでおり、そこにロープが
一本垂れ下がっているのを見つけ
た。間違いなく外だと確信し、
俺はロープをよじ登った。
外に出ると、間もなく夜明けの
ようで、うっすらと東の空が
明るくなっていた。眼下には
奈落の崖が広がり、その反対側
にはせり出た遺跡が望める。俺は
地下を通って遺跡の反対側に
やってきたようだった。あたりは
「キングサボテン」が所狭しと
生えていた。今の時期はちょうど
花を咲かせ、受粉する季節のようで
花畑となっているが、もしかしたら
古代人たちが「キングサボテン」を
栽培していたのかもしれない。
現代技術では「キングサボテン」の
栽培は不可能とされているが、
恐らくここのサボテンは、保持して
いる水分が「命の水」によるもの
なので、ここまで大きく育つのだと
思った。そして「キングサボテン」の
花の実には強い麻酔を含んでおり、
しかも「ゲネポスの毒牙」の
麻痺毒ように副作用が残らない事から、
至高の薬の一つとして数えられている。
俺は「キングサボテン」から花の
実を十個ほど採取した。採りすぎは
狩猟規定に違反してしまうからだ。
それらを小袋に詰め、腰からぶら下げた。
そして、強い日差しが砂漠を
照りつけた。崖越しに見る日の
出だった。一度中へ戻る必要が
あるかもしれない。外に居たまま
では熱にやられてしまうからだ。
縦穴を降り、新しいルートを
発見したのでそちらへ進む。
すると、つり橋の掛かった崖に
出たのだ。そのつり橋は遺跡の
中へと続いている。このルートは
「キングサボテン」畑へ続く
ルートのようだ。農夫たちがこの
道を通ってサボテン畑へと向かって
いったのだろう。つり橋のロープは
老朽化しており、今にも切れそう
だったので、ゆっくりと渡ったが、
俺が渡りきろうとしたところで、
ロープが持たず二つに切れてしまった
が、間一髪、遺跡に辿り着く事が
でき、俺はそのまま上を目指し、
無事に遺跡から脱出する事ができた。
これも全てオリビアのお陰だが、
彼女は今どこにいるのだろう。
ラクダのレオの元へ戻ると、
オリビアが乗ってきた一頭と
積荷用の一頭が残されたまま
だった。やはり戻ってきては
いなかったが、レオの鞍に
一枚の手紙が挟まっていた。
ノーチェスへ、と宛名書きが
されている。オリビアのもの
だと思って間違いないだろう。
「ノーチェスへ
今は君の寝顔を横に、この手紙を
こっそりとしたためている。
この手紙を読んでいるという
ことは、私はここにはいない
ということだ。もともと、君か
私のどちかしか地上には戻れ
なかったという事だ。例え君が
この手紙を手にしても君の事を
怨みはしない。むしろ、その
資格が無い。君を殺そうとして
いた事実には変わり無いからだ。
私は今まで様々な人間を殺めて
きた。任務で仲間になった
ハンターを口封じで殺した事も
ある。もちろん、君のことも
殺そうと思えばそれもできるの
だが、私にはできない。今が旅の
途中だからではない。年下の君に、
私は間違いなく魅かれていた
からだ。血にまみれた私が、
唯一自分を確認できる。君に
伝えた情報は殆ど作り話だが、
この気持ちに嘘や偽りが
無かった事は信じて欲しい。
私は元々、ある使命を担って
この地へやってきた。だが私は
その任務に失敗し、砂漠の
近親者として骨を埋めること
となってしまった。目的は
聞かないほうがいいし、君には
口が裂けようと話す事はない。
だから君の為にも、この事は
忘れて欲しい。もし、ジオ・
ワンドレオで仲間の募集が
上手くいけば、君を巻き込む
事はなかったのだが、あんな
システムがあったというのは
私の誤算だった。君とは
もっと別の出会いをした
かったと思う。
最後に聞きたい事とがある。
こんな私を怨んでいるか?
怨んでもらって構わない。
私は君に許して欲しいとは
思っていない。許してもらえ
るとも、思っていない。
だが・・・もし再び生きて
会えた時には、私が使命を
全うした時には・・・。
その時には私の事を好きに
してもらって構わない。
ノーチェス、良き狩りを。
オリビア・ニューマン・ジョンソン」
オリビア。俺は涙が止まらなかった。
複雑な思いが交錯し、それでも
オリビアが愛おしくて・・・。
泣き疲れた俺は、遺跡の外にあった
廃屋へ入り、そこで昼をやり過ごした。
洞窟を歩き通したせいもあり、
直ぐに寝に落ちる事ができた。
日の入りの時間になり、目を
開けようとする。隣にオリビアの
寝顔を思いながら。全てが夢で
あるようにと、切ない思いを
込めながら、恐る恐る。しかし、
そんなことで彼女が戻ってくる
のなら、母の病気も嘘にできる
ような気がした。
・・・しっかりと目を開けて、
前を見よう。砂漠のど真ん中に
取り残された。今回の旅は
後半分。この砂漠を出たら、家に
帰ろう。折れ掛かった気持ちに
添え木を当てて、俺は生還に
のみ執着する事にした。
当たりはすっかり暗くなり、出発の
準備をした。失った「香駿」の
変わりに、愛刀「クロームデスレイザー」を
再び背負い、主人を失った
ラクダを引き連れ、夜の海に
歩を進めた。ザナドゥを後に
してしばらくすると、砂嵐に
巻き込まれた。視界が完全に
遮断し、レオたちの足も完全に
止まった。だが次の瞬間、
すっかりと晴れ渡った星空の
下に出る。一体なにが起こった
のか。さっぱりわからないで
辺りを見回していると、後ろに
あったはずのザナドゥが消えて
なくなっているのだ。何故なのか
理解できなかったが、今更用は
ないので戻る事はない。俺は
再び前を向き、何もかも振り
返らないつもりでいた。しかし、
砂漠の女神は俺の事をただで
返してはくれなかった。
レオの身体を通じて感じる振動と
共に、俺はただなら気配を感じ
後ろを振り向いた。砂が俺の二倍、
三倍は膨れ上がっているでは
ないか。咄嗟に俺は何かが飛び
出してくると感じ、レオから
飛び降りた。次の瞬間、レオは
砂と共に空高く舞い上がった。
他の二頭は巻き込まれたのかすら
分からない。恐らく砂に飲み
込まれたのだろう。山盛りの
砂はどこかへ消えてしまったが、
次の瞬間地面の下から押し上げ
られた。俺は大きく打ち上げられ、
空を舞った。何とか着地を決め、
気になるような外傷は無かったが、
その砂より現れたのは、漆黒の
鱗と、厳つくねじれた二本の角。
燃え上がるような紅玉の瞳、
出会ってはいけない黒い嵐
「ディアデビル」だった。しかも
口から黒い息を吐いている。
退化した火炎袋から炎は出ないが、
これは奴が怒っていたり、興奮したり
すると見られる現象、と文献に
書いてあった。出会ってそうそう
ご機嫌ななめの「ディアデビル」に
出くわすとは、そうとう運が無いと
思っていいだろう。やはり俺は
砂漠で死ぬのか。とりあえず俺の
すべき事は、ある程度ダメージを
与えて撃退する事。しかし、狩猟用の
携行品はほとんどラクダの荷物と
一緒だったので、かろうじて
持っていた滋養強壮「回復薬グレート」と
スタミナ回復「元気ドリンコ」の
ビンが二本ずつ。俺は抜刀し、
「クロームデスレイザー」を構えた。
しかし奴は直ぐに地中に潜り、姿を
くらましてしまった。だが、
あんなに興奮して襲ってきたので、
このままどこかへ行くというのも
考えづらかった。とすれば、
先程と同じように、俺の真下から
現れて突き上げてくるに違いない。
剣をしまい、すぐさまその場から
逃げ出した。すると次の瞬間、
俺の予想は見事に的中した。
立っていた場所に「ディアデビル」が
飛び出してきた。間一髪奴の急襲を
逃れ、俺は足の下に潜り込んだ。
走った勢いで武器を出し、抜刀斬り
から薙ぎ払い攻撃に繋げた。足を
切るが、奴は息を荒立てて、左足で
地面を蹴る。そして再び地面に潜り、
姿を隠す。恐らく直ぐに浮上すると
思うので、再び剣をしまうとその
場から離れた。間髪入れず、地面
から飛び出してきて、攻撃を免れる
事ができた。しかし、直ぐにこちらを
向き直すと、大きく羽を広げて
こちらに向かって走ってきた。
奴は飛竜と呼ばれているが、基本的に
飛行はしないのだそうだ。その分
足腰は強靭で、攻撃力も他の飛竜より
群を抜いているの出そうだ。広大で
隠れるところが無い砂漠において、
奴との遭遇が死を意味することが
よく分かる。基本的には直線上に
立たなければいいので、俺はひたすら
横へ逃げた。しかしいくら横へ
逃げても奴が俺を追撃してくるのだ。
巨大な身体を支える足腰が強靭だから
こそ、できるのだろう。
今までの飛竜とは比べ物になら
ないほどの強敵だ。俺が取った策は、
ぎりぎりまで引き付けて頭から飛び
込む事だ。このまま走っていただけは、
奴の足に巻き込まれてしまうのは
必至だったからだ。迫る巨体の影に
入り、タイミングを見て地面を蹴り、
ダイビングして空を飛んだ。間一髪、
奴の突進から逃れると一陣の強風が
突き抜けるのだった。勢い余って、
落ちた衝撃を逃しきれず、砂の上を
数回転してしまった。口の中に砂が
入ってしまい、出来る限り吐き出す。
そして奴を見やると方向転換をして
きて再び突進をしてこようとする
ではないか。のんきの砂など吐いて
いる余裕など無い。「ディアデビル」が
走り出すのと同時に、俺も横に走り
始めた。ダイビングなしでやり過ごす
と、そのまま奴の後ろを取って、
剣を抜き斬りつけた。「ディアデビル」は
振り返りざまだったが、俺は尻尾と
足にダメージを与える事ができた。
すると何を思ったのか、奴は砂の下に
穴を掘って潜り始めたのだ。なんか
嫌な感じがすると思いその場から
離れたが、出てきたときには砂が
爆発するように物凄い勢いで飛び
出してきたのだ。出てくると同時に、
足の裏を砂に擦り付け、口からは
黒い煙が出ている。これは退化した
火炎袋が怒りによって働いていると
聞いた事がある。どうやら俺は奴を
怒らせてしまったらしい。プライドが
高く、敵からの攻撃に対して怒りを
見せると聞いていたが、ここまで
短気とは思わなかった。
「ディアデビル」は俺を視界に
捕らえると、怒涛の勢いでこちらに
走ってくるではないか。走るスピードが
さっきとは比べようもないほど速い。
息を荒げて走ってくる奴に対し、それから
横に逃げる。しかし俺の姿を追って
徐々に横に伸びてくる。完全に俺に
体勢を合わせてきているので、俺は
もう逃げようがないことを悟った。
そして彼女の後を追うことを覚悟した。
3-6(終)
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